俺の主はどうしようもない女だった。立場上は審神者である主がこの本丸の頂点にいるが、ほとんど傀儡に近い。とにかく上に立つことに向いていない女だが、昔から巫女の類はどこか変わっていることが多い。刀剣の付喪神である俺たちに肉体を与え、動かすための代償ならばそれも仕方ないと、俺は主の性分を飲み込んでいた。
はじめは小規模だった本丸も、四つの部隊を編制し方々へ遣ることもできるくらいに大きくなった。当然、仕える刀剣の数も増えたのだが、この頃部隊の戦果がなかなか振るわない。未熟な刀剣で編成された部隊ならまだしも、熟練の部隊――そこには俺も含まれている――でさえ、出陣して間もなく撤退を余儀なくされることがしばしばあった。
おかしい。違和を覚えた俺は、原因を探ろうとした。まずは手入れの怠りを疑い、手入れ部屋に向かっていたその時だった。廊下の隅に座り込む影がひとつ。
「主?」
座り込み、俯いていた主が顔を上げる。一目で具合が悪いと分かるほどに、その顔は青白くなっていた。
「主? お身体の具合が悪いのですか?」
主は黙って首を振る。そのしぐさもやっとなほどに、動きが弱々しい。この女はいつもそうだ。状況が悪くなればなるほどふさぎ込む。軽く舌打ちをして、座り込んでいる主を抱え上げようとしたが、嫌々と身を捩られる。
まるで駄々っ子の相手をしているようだ。「いい、長谷部」と腕を突っぱねる主を強引に抱き上げて部屋に連れていき、畳の上に下ろした。
「あんなところで座りこんでいても、具合は良くなりませんよ」
「……へいき、なのに」
拗ねたように主は呟き、部屋を出ていこうとする。しかし一歩踏み出した途端にぐらりと崩れ落ち、へたり込んだではないか。こんな状態なのに、なぜ強がる。気丈を通り越してもはや愚かと形容すべき主の行動に、俺はため息をついた。
主の横に跪き、「休んでください」と言う。ほんの少し、語気を和らげることも忘れない。それでも主は頑なに首を振る。「違うの、具合が悪いわけじゃないの」それなら何だ? いつもに増して扱いにくい主にいら立ちを隠しきれず、きつめに問い詰めた。
すると、観念したのか主が結んだ口を開いた。
「……力が、足りないの」
「力?」
「長谷部やほかの皆を動かす、力……」
俺たちが肉体を得たからといって、ただ単に寝たり食べたりするだけでそれを保てるのかと考えれば合点がいく。俺たちは少なからず主から何かしらの力を賜って動いていたようだ。
となると、このまま主の言う力とやらが尽きると俺たちは動けなくなるだろう。いや、それ以前に、ここ最近の不調が主が弱っているせいだとすれば――。俺は主に問うた。
「その力は、何をすれば戻るのですか?」
ヒッ、と怯えたように主は顔を背けた。またこの女は、と背けた顔をこちらに向かせ、今一度聞く。
「……セックス」
「は?」
「だから……、長谷部とか、他の刀剣と、セックス……、エッチ……ううんと、その、まぐわって、力を分けてもらうの……」
なるほど、房事か。もっと手間のかかることかと思えば、この女を抱けば済むだけのこと。俺は立ち上がって武装を解き、上衣も脱ぎ捨てる。それから目を白黒させている主を組み敷き、襟元を一気に開いた。
ふる、と小さく揺れながら、主の乳房が露わになる。
「やっ、長谷部! な、何するの!?」
じたばた暴れる主を押さえつけ、袴の紐も解いていった。邪魔な袴と下穿きを主の足から抜いて、後ろへ放る。素肌、乳房、それから主が手を伸ばして必死に隠している女陰。それらが一度に目に飛び込んできて、ぞくぞくと背筋が震えてくる。おのずと巡る血が熱くなり、自身の一物が首を上げていくのを感じた。
自分の着衣も緩め、鎌首上げた一物を外に出す。それから女陰を隠す主の手を払いのけ、両足を大きく広げてしっかり押さえつけた。赤く色づいた女陰に一物を宛がって、上下に軽く動かしながら蜜壺の口を探る。窪んだところを見つけ、腰を進めようとしたがどうも進みが悪い。ほんの少し押し込んだだけなのに、きゅうきゅうと縮こまってしまうのだ。
「主、力を抜いてください」
俺の声は聞こえているのか、聞こえていないのか。はたまた聞いていないのか。反応のない主に、語気を強めて「主」と再度言う。
「……長谷部、やだ、やめよう」
「何を言っているのですか? 力を抜いてください」
なおも嫌だと主は首を振る。この期に及んで何を、――と、俺は多少の抵抗は構わないことに決めた。縮こまり、進みの悪い蜜壺の中へ中へと一物をねじ込んでいく。
組み敷かれた主からは嗚咽が漏れていた。くぐもった声で、「痛い、痛い」と泣いている。しかし泣いてるからといって止めるわけにはいかない。荒療治ということばがあるように、治すためには痛みを伴わなければならないこともあるのだ。それを主に言い聞かせると、主は唇を噛み、行き場のない両手で自分の泣き顔を覆い隠した。
蜜壺は次第にぬめっていき、腰を前後させるのが楽になってきた。ただきつかっただけの締め付けも、ぬめりが加わると心地よさに変わっていく。快楽の頂点はまだか。それを求めて俺は腰を打ち付け続けた。
ふつ、と張りつめた糸が切れる。天を仰ぎ緩んだ口から息を吐き出した。果てた一物を引き抜くと、主の身体が小さく震えた。ぬめぬめと濡れた女陰から点々と飛び散っているのは血か。破瓜――ああなるほど、生娘だったのか。血を一瞥して、俺はそう思った。着衣を整え、放った主の袴と下穿きを取る。まだぐすぐす泣いている主は、露わになった下半身を隠そうともしない。仕方なしに、むき出しの脚を覆うよう袴を掛けてやる。
「主、人が来ますから身なりは整えてください」
わずかに頷きはしたが、動く様子はない。しびれを切らして主の腕を掴んで引き起こすと、ようやく乱れた着衣を直し始めたが、のろのろと怠慢な動きだった。しかし顔色は良くなっており、なんとか危機は脱したようだ。
「主、ひとつお伺いしますが」
「……何?」
ゆっくりとこちらを向いた目は、ひどく暗かった。
「俺たちを動かすための力は、どれくらい持つのですか?」
主はしばらく目を泳がせ、最後には視線を落して「分からない」と答えた。分からないはずがないだろう。窮地を救ってやったというのにこの態度。本当にどうしようもない。
主が力不足を訴えるのを待っていたら、また同じことの繰り返しになってしまう。それならいっそ毎晩抱いて、力が不足しないようにする方がましだろう。主にそれを進言したが、言葉は空虚の中へ消える。主は俯いたまま、否定も肯定もしなかった。
「明日の晩から、俺が伽の相手をしますので」
ほとんど決まったことのように今一度言うと、主は首を縦に動かした。
それを認め、俺は立ち上がる。
「しばらく人払いをしておきますから、ゆっくりお休みください」
手早く武装を着け、何事もなかったかのように身なりを正して、俺は主の部屋を出た。
効果はすぐに表れ、翌日は出陣から遠征、更には演練に至るまで文句のない戦果を収めた。やはり主の力不足と俺たちの不調は関係していたようだ。突然不調を脱したことに首を傾げる者も少なくないが、その理由は明かさないことにした。
夜が更けた頃、俺は主の部屋を訪れた。今宵の伽を行うためである。一礼して襖を開けると、既に明かりが消されている。幾度かまばたきをして闇に目を慣らすと、こんもりと布団が盛り上がっているのが見えた。
「主、伽に参りました」
布団に潜って、それで隠れているつもりなのだろうか。布団を掴んで半分ほど捲れば、身体を丸めた主がそこにいる。
「今日はいいよ、まだ力は残ってるし……」
そう言って主は視線を反らす。だが、そういうわけにはいかないと、俺は主に覆いかぶさり寝間着の帯を解く。
「いい! いいよ長谷部!」
昨日と違って身体の調子が戻っているからか、主は激しく拒否をする。完全に抑え込まれてもなお抵抗を止めようとしない。「長谷部、嫌! 嫌っ!」俺が寝間着を肌蹴けると、大きく身体を捻って肌を隠そうとする。俺に背を向けて、それで勝ったつもりでいるのか。
愚かな主に、そんな抵抗は無駄だと教えてやらなければならない。背面から圧し掛かり、片手で乳房を掴む。女の乳房は呆れるくらいに柔くて、まるで手が吸い付いてしまったみたいだ。
「や……、だぁ……」
面白いことに、乳房を掴むと主は抵抗を止めてしまったではないか。肩を縮めて身を捩りはするが、その姿は善がっているようにしか見えない。
これは、これは――。義務感で始めた伽に、ひとつ愉しみが見えてきた。しこった乳首に爪を立て、カリカリと擦りながら主に問う。
「主、なぜ嫌なのですか?」
主は答えようとしない。しかし乳首を擦られる感覚だけはしっかり味わっていて、結んだ口から吐息を漏らしている。
「主、答えてください」
「――ひゃ!」
仕置きのつもりで、乳首をキュッとつねり上げた。答えを急かすように、左右の乳首を強めに摘まむ。
これが逆効果だと気付くのにそれほど時間は要しなかった。この女は、痛めつけられるのが好みらしい。そういえばこの女、俺が呆れてため息をつくと、何故か瞳を恍惚とさせる。気のせいかと思っていたが、たった今確信に変わった。全く、主はどうしようもない。
ならば、と俺は手を離す。すると主はあからさまに落胆したような声を出した。しばらくじっとして続きを待っているが、簡単に餌はやらない。
「俺も困っているんです。主が倒れたら俺たちも総崩れです。そうならないために伽を致すのに、どうして主は嫌だとおっしゃるのですか?」
「それ、は……」
「それは?」
少しの沈黙を挟んで、主が答えた。「初めてが、あんなだったから」
どうやら主はまぐわいに「こうであったら」と夢を抱いていたらしい。殊に初めての時は本当に好きな人と、こんな雰囲気で、など、 聞いてるこっちが呆れるほどに幼い理想を持っていた。それを俺が全て打ち砕いたから、もう夜伽は嫌だと言う。
さて、どうするか。せっかく俺は愉しみを見出したところだ。しばし考え、俺は主に言った。
「――それは、大変申し訳ないことを致しました」
主から退き、恭しく頭を下げた。俺の態度に主まで慌てて正座をしたではないか。
「長谷部、そんな……」
「主、お願いがございます。どうかこの長谷部に、主がどうして欲しいか教えていただけませんか? 言われた通りに尽くしますので、何卒」
頭は下げたまま、視線だけを動かして主の様子を伺う。主は口元に手を添え、目をあちこちに泳がせていた。そして、小さな声で「キスして」と要望を口にした瞬間、俺は思い切り笑ってやりたくなった。思った通り、食いついたと。
面を上げ、「キス、とは?」と主に問う。なんとなく意味は分かるが、この女に言わせてみたいのだ。俺に尋ねられ、主ははっとしたように「口吸い」と答えた。
「では」
スイと間を詰め、主の唇を吸う。唾液を絡ませ、昨夜見た女陰のように濡らしていく。主が俺に抱き付いてきたので、こちらも抱き締め返してやった。
長谷部、と俺の名を呼びながら身体を擦り付け、膝の上に乗ってくる。箱入りかと思いきや、なかなか強欲ではないか。誘い方こそ控えめだったが、主は自ら舌を絡ませてきて、離れようとしない。合間に目配せをして寝間着を肩から落とし、主の身体を仰向けに寝かす。
「それで、次はどう致せばいいのですか?」
すっかり蕩けた瞳を俺に向け、だらしない笑みを浮かべながら主は言う。乳房を揉めと。
寝ころび少し平たくなった乳房を手のひらで覆い、ゆさゆさと揺する。触った感じは、先ほどの方が良かった。体勢が悪いのだろうか。物足りなさは主も気付いており、「何か違う」と言いたそうにしている。身体を起こして、乳房が流れないようにすればいいのかと勘付くが、行動には移さずにいた。タダで快感を与える気はない。俺は少し眉根を寄せ、主に言った。
「……物足りないのですか……? 申し訳ございません、俺が、不得手なばかりに……」
主は咄嗟に首を振る。その反応を見て、俺は更に続けて問う。「主、どうして欲しいか教えてください」
少しの間を置いて、主が口を開いた。
「ちくび、を……」
「乳首を? 主の愛らしい乳首をどうすれば?」
愛らしい、とほんの少し言葉を飾ってやったら、みるみるうちに主の顔が赤くなって、手で乳房を隠そうとまでしてきた。なんと初心な仕草か。俺はその手を阻み、主の要望を待つ。
「乳首に、口付けを、してください……」
「かしこまりました」
言葉遣いまで変わり、主は着実に俺の手中に落ちてきている。
主の乳首を軽く吸い、音を立てて唇を離す。ふと思いつき、わざと乳首に歯を立ててみた。刹那、主の肩がビクンと跳ねる。俺は咄嗟に取り繕い、主に詫びた。
「申し訳ございません」
「あの、長谷部、噛まないで……。噛むんじゃなくて、舐めて欲しいの……」
本当は噛まれるのも好きだろうに、主は甘い刺激を求めた。だが応えてやるのが俺の愉しみだ。この女の内側にあるものを全てさらけ出させたい。口にするのもはばかられる、淫らで欲にまみれた言葉を、この女の声で聞いてみたい。
舌を出して乳房の頂をひと舐めすると、待ちわびたように主が吐息を漏らした。十分硬くなっていると思ったが、乳首は更に硬くしこり、存在を主張する。噛んでやりたい、抓ってやりたいとウズウズ欲が湧くが、ぐっと耐えた。
「あぁ、長谷部……、もっと」
首を反らし、腰をくねらせ主は俺に言う。硬くなった乳首を舌で弾き、転がす。少し唾液を溜めて、音を立てて吸い付てもみる。気分はまるで赤子だ。
「やぁ、そんな吸っちゃ、あん」
気持ちよさげに目を細め、主は身体を捩った。胸元に顔を埋める俺の髪を、主の手がくしゃくしゃと撫で回す。むず痒いのは、髪を他人に触らせたことがないせいか。
主が新たな要望を口にした。もっと色々な場所に触れ、舐めてくれと言う。かしこまりましたと返事をし、胸元からゆっくり下がっていく。
まずは無防備な腹部から。脇腹に手を這わせ、何度も何度も滑らせる。同時に鳩尾から臍へ、線を描くように舐めていった。ひくひくと主の腹が小さく波打つ。臍の周囲をくるりと舐めると、ひときわ大きく跳ねた。
「長谷部、からだ、熱い……、熱くなってきた……」
紅潮した頬はもちろんのこと、足を広げるために掴んだ足首、果てはつま先に至るまで主の身体は火照っていた。下穿きを脱がすと、しっとり濡れた女陰が露わになる。さて、ここはどうすればと眺めていたら、俺の視線に耐えかねた蜜壺がヒク、と蜜を零した。
主がちらりちらりと俺を見る。その目は期待に満ちていた。だから、タダで餌はやらないと言っているだろうに。「主、見つめるだけでは分かりません」と眉尻を下げて言うと、主は慌てて視線を逸らした。
主の片足を掴み、女陰を露わにした格好にさせてしばらく経つが、主は一向に口を開こうとしなかった。その代りに蜜壺――下の口、とでも言ってやるべきか――がヒクついて蜜を垂らす。
「長谷部ぇ……」
「はい、何でしょう」
「長谷部、あの……」
ようやく口を開いたと思えば、あの、とかその、と言葉を濁してばかり。「教えてください、主」と幾度か問答を繰り返し、ついに主が負けた。
「そこ……長谷部が今見てるそこも、触って、舐めて、……それから……」
「それから?」
欲をさらけ出し、俺に乞う様を見て背筋がぞくぞく震えた。例えるなら討伐に出た時の、あの昂揚感。俺がそれを噛みしめていたところを、いきなり下腹部を撫でられる。「長谷部のこれ、挿れて」
――思わず、この女を突き飛ばしたくなった。
昂揚感は一転して激しい鼓動に変わる。衣服を隔てても感じた、貫かんばかりの刺激。触れられたところが硬くなっているのはばれている。俺は二、三度深く呼吸をし、平静を装う。
承知いたしましたと主の要望に応え始めたが、意識はどうしても下腹部に向いてしまう。早く、中へ入りたい。肉体は厄介だ。痛みや疲労にはすっかり慣れたが、欲を引き出す感触にはまだ弱い。主のことだから、それを知っててやったわけではないだろう。偶然とはいえ、弱みを見せてしまったことが悔しかった。悔しさを昇華するように、俺は主を完全に組み敷けるくらいめちゃくちゃに攻め立てた。
指で女陰を割り開き、蜜壺の入り口を執拗に擦る。「うあ、長谷部、そこ、あっ、だめ、だめ」嫌々と首を振る主はお構いなしに、ぐずぐずと濡れそぼった女陰に口付けた。口を付けては音を立てて離し、また口付けて舌を動かす。蜜壺の中に舌を少しばかり押し込むと、泣き声とも歓喜ともとれる声を主が上げた。そうだ、これでいい。力で主をねじ伏せ、自分が優位に立っていることを認めてやっと鼓動がおさまってくる。
「長谷部ぇ……、長谷部の、欲しい。お願い、挿れて」
「主が望むのなら、応えましょう」
纏っていたものを全て脱ぎ捨て、張りつめた一物を、半べそをかいている主の中へゆっくりゆっくり押し込んでいく。
「……はぁ、あ、長谷部……」
喉を反らせ、主は身体中、そして声までも震わせる。
「長谷部の身体、あったかい」
そう言って主は俺の背に腕を回す。ぎゅうぎゅう抱き込まれ、つい俺も同じようにしてしまった。
一突き一突き、主の中に刻み付けるように腰を動かす。根元まで押し込んでから更にぐりぐりと動かすと、主の中が俺を締め付ける。俺の身体に絡む腕と脚、それからしっかり咥えこんで離さない女陰。文字通り全身で俺を捕えて、主は涙の浮かんだ目で笑う。
「はせべ、はせべぇッ、すき、すきぃ」
「――ッは、だから、んッ、主……っ」
まだ足りないと言わんばかりに主は唇を寄せてくる。互いの舌を舐め合い、時折吸って離す。言いたいことは全て口付けの中に混じって消えた。
先に果てたのは主の方で、その瞬間に全身を縮こませ中の一物をキュウ、と締め上げる。道連れにされるように俺も欲を吐き出し、達した。
身なりを整え、眠る主を一人残して部屋を出た。辺りは寝静まっており、廊下がきしむ音だけが響く。
――はせべ、はせべぇッ、すき、すきぃ
頭の中で主の声が何度も聞こえてくる。
感情を露わにした主の顔と声が焼き付いて離れない。あの時、「ええ、俺も」と言ってしまいそうになり、慌てて言葉を飲み込んだ。流されるとは、情けない。ため息をひとつ吐いて、俺は自分の部屋へ戻った。
伽を毎晩するようになってから、主も俺たちもひどく不調になることはなくなった。主は相変わらずの体たらくで、難しいことから逃げようとする。だがそこで、すかさず見えない手綱を引く。
「今宵は伽をしてあげませんよ」
「……っ、ご、ごめんなさい! 仕事、します!」
ああ面白い。
さて、今夜はどう愉しもうか。